視線を上げ、まっすぐに瑠駆真を見つめて答える。
「鍵はもともと一つしかございません。美鶴さんに管理をお願いする時、スペアを一つ作りました。それ以外にはございません」
「鍵は、今ここにありますか?」
「今ここ… と言うか、屋敷の中にはあります。先ほど確認してまいりました。紛失はしておりません」
「つまり」
慎二は口元に指を添える。
「木崎が開けていないのなら、開けたのは美鶴さん、ということになりますね」
考え込むように涼しげな目元。唇に添える細く淑やかな指先。その仕草に、聡はチッと舌を打つ。
嫉妬が生み出す猜疑心。
鍵があるからってのは、理由にはならないんじゃねぇのか?
霞流がこっそり持ち出して、駅舎に行って鍵開けて、何食わぬ顔で鍵を戻したとも考えられる。
何の目的で?
知らねぇよっ!
だいたいこんな胡散臭いヤツの考えてるコトなんて、いちいち理解できるかよっ!
この キザヤローっ!
だが美鶴は、聡がキザだと貶すたび、その言動を嗜める。
美鶴、お前―――
焦りと憤りが競りあがる。
考えたくない。
「美鶴さんが鍵を開けて、そのまま立ち去られたのでは?」
「ふざけるなっ!」
再び机を叩きあげ、今度こそ立ち上がって前へ乗り出す。
「美鶴はそんな無責任なヤツじゃねーよっ!」
「別に、無責任だと申しているわけではありません」
「おんなじコトだろーがっ」
「聡、やめろ」
だが聡は、もう瑠駆真には止められない。
「美鶴が、鍵あけっぱなしでどっか行っちまうワケねーだろっ」
「もちろん、美鶴さんがそのような方だとは思っておりません」
「どうだかっ」
聡の言葉にも、慎二は顔色一つ変えない。腹を立てることもせず、不機嫌な表情も見せない。
実際、慎二は腹など立ててはいない。
むしろ、楽しんでいる。
若いな。
たかが女一人のために、ここまでムキになるコトもなかろう。
嘲ると共に、だかどこかで納得もする。
あの少女には、やはりそれだけの魅力があるのか?
俺をも、満足させてくれるのか? 大迫美鶴。
だがもちろん、そんな心内など露ほども見せない。披露するのは、豪邸の貴公子として相応しい態度。
「ただ、たとえば急な用事で駅舎を離れなくてはならなくなったとか」
「急な用事? 何だよ、それ?」
「それは私にもわかりません。例えば、お友達に呼ばれたとか」
「美鶴にそんな友達―――」
そこまで言って、聡は視線を落した。
言いたくはないが、今の美鶴に親しい友達はいない。
だが、美鶴を毛嫌いする輩はいくらでも存在する。そんなヤツらに無理矢理呼び出し喰らって、どっかで暴行受けてるとか?
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